ネットメディアの「呼吸」に慣れるということ

5年後、メディアは稼げるか――Monetize or Die?
佐々木 紀彦
東洋経済新報社
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 これほど長い日時このブログを放置せざるをえないほど忙殺されて、というか現在も絶賛忙殺中なのですが、現実逃避ついでに最近ようやく読了できた『5年後、メディアは稼げるか』について何か書いてみる。

 本書は、『東洋経済オンライン』編集長の佐々木紀彦氏が現時点でのメディア環境を俯瞰的に網羅しており、特にこれからこの業界でお仕事をしたいというひとにとっては一読の価値あり。特に海外事例を紐解きつつ、日本特有の環境に幅広く言及しているところは関係者ならずとも踏まえておきたいところだろう。

 ここで触れられている「メディア人としてのあり方」についてはおおむね首肯できることばかりなのだけれど、一点だけ。
 佐々木氏は、次世代のメディア人のキャリア設計として、20代は「紙」で経験を積むことをすすめている。理由として、「時間とおカネの使い方がぜいたく」で「密度の高い経験は、伝統的な紙メディアでしかできません」と述べている。
 Parsley個人の意見は逆で、若いうちにウェブメディアでお仕事のスピードに慣れておくことが必須で、むしろ「紙」のスケジュール感に慣れると「食えなくなる」可能性があると思う。

 ウェブサイトの場合、365日24時間どこかしらの記事が常にアップされて、コンテンツの質量に関係なく読者にとってはフラットに展開されている。そんな中では、取材⇒執筆(加えて画像あるいは動画編集)⇒公開というプロセスをどれだけ短くできるのかが勝負になってくる。もっというと限られた時間とリソースで、アウトプットができないと「数」をこなせない。

 佐々木氏は「ウェブの場合はコンテンツの量を多くするために、取材内容を多く盛り込もうとしてしまう」と述べているけれど、これは時間的な余裕がある場合の話。しかも、多くのネットメディアでは2000字以上の記事になると読者を選ぶことになるので、逆に「容赦なく切る」スキルが求められる。だから「紙」でないと「大事なポイントだけを要約するスキルがなかなか磨かれません」というのは偏見だと思う。ただ、ネットの要約と紙の要約は微妙にポイントが違ってくるので、「紙」っぽい作り方を知っておくに越したことはないだろう。

 「紙」の記事執筆は「加圧式トレーニング」というのに対して、ウェブでの記事作りは短距離走を繰り返すことに似ているかもしれない。短い間に書いてアップすることを何セットもこなしていくことで、「呼吸」を覚えていく。そうすると、脱稿までのスパンが長くなっても対応しやすくなるはず。この逆に、ゆったりとした時間の使い方に慣れていると、アウトプットに完璧な形を求めがちになりそうだし、早い回転についていけなくなりそう。あくまで私の主観ですが。

 個人的には、アウトプットの数こそが「基礎体力」を高めることができるという考えなので、一つの記事なりコンテンツなりを題材探しから企画、取材、執筆(あるいは撮影)、編集、アップまでを数時間~数日のうちにこなせるウェブメディアの方が、紙媒体よりも数を見れる分だけ制作の経験値は稼ぐことができるように思える。
 もっとも「経験」のうちには取材先などの関係者との知遇を得るということも含まれるので、そういう「密度の高い経験」を得るには、現状では紙媒体の方が有利。おそらく佐々木氏のいう「筋力」には、このような人脈つくりも含まれていると思われるので、「ウェブでも生きる」ということには間違いはない。
 とはいえ、これから間口として紙媒体は減りこそすれど増えることは考えにくく、20代そこそこで経験できる僥倖に恵まれたひとはますます少なくなっていくだろう。かといって、紙媒体でないと経験が積めないかといえばそういうことは全然なく、むしろネットでの「呼吸」を早いうちに会得することができれば、できていないひとよりも苦労は少ないはず。何も「経験」はお仕事だけで得れるものではないしね。

 長々とケチをつけてしまったけれど。本書で最も肝に銘じるべきなのは、メディア人に必要になってくるところは「教養」であるとしているところ。教養がないと「何が大事か」を見分けることができないというのはおっしゃる通り。Parsleyも、10代の頃に古典と呼べるものを片っ端から濫読して、20代前半に月10本ペースで映画を観ておいたおつりだけでやっているといっても過言ではない。それでも時に無知の壁に阻まれるから、この言葉は余計に身に沁みた。

 そんなわけで。メディアでお仕事したいと考えているひとは、とりあえず『青空文庫』を一度はぜんぶ読破すること。知識の土台を固めるのには、早いに越したことはなく、お仕事をはじめてからでは遅きに失するので、こんなエントリーを読むよりも上手に時間を使って下さいな。