『ロスジェネ心理学』を読んだ

ロスジェネ心理学―生きづらいこの時代をひも解く
熊代 亨
花伝社
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 献本頂きました。ありがとうございます。

 『ロスジェネ心理学』の著者であるシロクマ先生には、『月刊宝島』2012年9月でインタビューさせて頂いたこともあって(こちらを参照)、ちょこちょことお考えに触れる機会があった。それが書籍という形でまとまったことに関してそれなりの感慨があったりします。
 ご存知の方も多いだろうけれど、シロクマ先生は「適応」をキーワードに、オタクや非モテがどのようにして社会で生き抜くべきか、ということをメインにサイト『汎用適応技術研究』やはてなダイアリーを運営しており、それは本書でも「なぜ精神疾患が増えたのか」という考察や「インターネットに降り積もる怨念」という指摘など、随所で反映されている。

 個人的には、第4章の「取り扱い要注意物件としての自己愛」が特に面白くて興味深かったのだが、ここで紹介することは割愛させて頂き、このエントリーでは「ロスジェネという世代特有の生きづらさ」についてシロクマ先生の同世代としての感想を記しておこうと思う。

 Parsley自身のことを話すと、10歳から18歳までを埼玉県の公団住宅で過ごし、小学校まで畑ばかりでたまにしまむらやマルエツ(ダイエー系列のスーパー)や家電チェーン店が点在している沿道を2km近くをてくてく通っていた。また、父親は自営業だったが家にいる時間が短くて、母親と接する時間が長かった。
 母親は教育ママと呼ぶほど厳しくはなかったけれど「いい大学に入れる」ということにはこだわった。塾にも通わせてもらったし、高校も私立の進学校に入れて貰えた。「いい大学に行けばいい会社に入れる」が彼女の口癖だった。自営業の不安定さを身にしみていることもあり「いい会社に入るためにちゃんとした大学に子供を入れる」のが彼女の一大事業だったように思える。
 しかし、私が大学に入るタイミングでバブル経済が崩壊。就職氷河期が訪れた。当時、文系の学部では4人に1人しか就職できないようなクラスもあった。要するに、さんざん言い聞かされていた「大学⇒一流企業」というレールがなくなってしまったのだ。そのあたりの心情は本書でも「梯子を外された」という表現で処世術が通用しなかったことへの鬱屈に関して言及されている。

 今となっては達成困難になった、バブリーな経済観念・恋愛観念を抱えて苦しむのは、おそらく私達の世代が最後でしょう。昭和時代の生き方が可能な先発世代は、何とか逃げ切るでしょうし、21世紀の生き方に適応した後発世代は、これはこれで新しいライフスタイルと価値観を構築しつつあります。そのどちらから見ても中途半端なのが私達であり、私達の育った移行期だったのです。(P72)

 社会に翻弄されて、団塊世代やバブル世代にも尊敬に値する人に出会えず若い世代からも理解を得られない(むしろ反面教師にされている)、という気持ちはParsleyにも少なからずあるから、本書でロスジェネの「気分」が解読されたことに対して「そうだよね」と頷く部分が多かった。

 個人的に特に共感するのは、個々人自身のことだけではなく、他者や社会に対してちゃんとコミットメントしないと、いろいろ詰みますよ、という指摘。
 第7章で「自分の世代のことしか考えていない大人を見習うな!」「若者なんてやめちまえ」であるように、シロクマ先生は「成熟」と「(子育てを含めた)次世代の育成」の重要性を随所で指摘している。また、上の世代が「逃げ切る」ことばかりを考えているとしても、どこかで連鎖を断ち切って社会を再構築する役割を引き受けなければならない、という主張にも深く同意する。

 しかし、本書でシロクマ先生はしごくまっとうなことを述べているのだけれど、それが簡単に受け入れられるのは難しいだろう。「自由」というモラトリアムを享受しているのはロスジェネの一つ上のバブル世代も同様なのだが、彼らが下の世代に対して「育成」に関わろうとしているひとの方が少数派に思えるし、「いい加減大人になれよ」という忠告に対して、「だって今の方が楽なんだもん」という返しをされることの方が多いはず。そう考えると暗澹たる気分にもなったりするな。

 まぁ、Parsley自身の感覚と較べると、シロクマ先生ってコンサバティブな「家族」「社会」というものに対して信頼を置きすぎているというか、伝統保守な政治思想の持ち主だよね、と思ったりもするのだけれど。そういう「常識人」の声ってまとめられること自体が案外少なくなっている中、記録としてだけでなく、社会や個人の振る舞いへの提言という部分でも、本書が2012年というタイミングで刊行されたことは意義深いと確信する次第です。
 ロスジェネ世代だけでなく、特にロスジェネ世代を使う側の世代にも読んで貰いたいなぁ、と願うばかりですね。

安倍自民党はそんなメディア戦略で大丈夫か?

 民主党のニコニコ動画に対するコメントについて(nicinico)

 ドワンゴ側からしてみれば、NHKも入らないような国会・委員会中継もしてるじゃん、といった憤りがあるのも分かるのだけれど、安住淳民主党幹事長代行が述べた「極めて偏った動画サイト」が誹謗中傷というのは、残念だけど無理があるよなぁ、というのがParsleyの印象。
 元切込隊長氏もご指摘のように(参照)、ニコニコアンケートを使った「ネット世論調査」は新聞社の世論調査と乖離があるし、ユーザー属性が67% /33%と男性偏重で若い世代が多いといった特徴が影響することも事実だったりする。しかも自民党や共産党の特集チャンネルをやっていて、全政党に平等な情報を提供できているかというと、必ずしもそうではないというジャッジをなされても致し方ないよねーと思う。
 だから、民主党がニコニコ動画も含めた各メディアが出席できる形での党首討論を逆提案したのは、彼らからすれば当然の選択だし、多様なメディアで放映・取材する場があるというのがベターなのではないだろうか。

 しかし、それよりも心配なのが、安倍晋三総裁と自民党のメディア戦略。
 ニコニコ動画にしろ、Facebookページにしろ、自民党にとっての支持層が可視化されやすいメディアで、なおかつ第三者の偏重による編集が介在せずに情報を発信できるという強みがある。
 ただ、この支持者と直接繋がることが出来るというのは諸刃の剣で、不支持の声や無関心層を実質「いないもの」と扱いがちになり、候補者や政策への支持を過大に見積もってしまいがち。それこそ2000年に加藤紘一氏がネットや2ちゃんねるでの支持を過大に見積もって盛大に自爆した故事を忘れてはいませんか、と思ったりする。
 まぁ、今回の総選挙は民主党政権の3年間が審判される側面が大きいから、よほどのことがない限り負けることはないだろうけれど、かといって大勝できるほどの状況ではないし、浮動票の獲得が重要だろう。その際に、ソーシャルメディアに特化した選挙戦術をしても支持者のパイは広がらない。
 逆に、党首討論で見せたように少しでも怯む姿勢を見せたとすれば、それまで支持者だとされていた層が手のひらを返すように離反してしまう可能性もあり得る。よく言われるように、敵にすると怖いけれど味方にしてもあまり役に立たないというのがネットユーザーの特徴なので、そのあたりを甘く計算しているとすれば危なっかしいなー。

 そんなわけで。ニコニコ動画、twitter、Facebookといったソーシャルメディアだと耳障りのいい言葉ばかりが届いて時流を見誤る怖さがあるから、自民党に限らず各政党には、実現可能かつ今後の日本にとって必要である政策を個別具体的にちゃんと掲げてネットを含めた各メディアを使い公知するという正攻法で臨んでほしいなぁ、と思う。

 しかしまぁ、今回の選挙で自民党のPR戦略は誰が担当しているのかは興味あるな。2005年の郵政選挙の際は世耕弘成氏が大きな役割を果たしたが、今回どのような役回りを果たすのかしらね。

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「ペンには訴訟」が論壇を破壊する

 上杉隆氏が読売新聞の記事を盗用したという疑惑をブログで紹介した池田信夫先生と、転載先の『BLOGOS』を運営するNHN Japanを名誉毀損で訴訟したという件(参照)。

 詳細については、Togetterのまとめに網羅されているので、そちらを参照して頂くとして。

 【上杉隆氏盗用疑惑】上杉氏からの訴状が池田信夫氏に到着(Togetter)

 Parsleyのような木っ端ブロガーにとって他人事ではないのは、ある相手と論争になった際、「言論」というフラットな場ではなく、裁判所という場での訴訟というシステムを使った非対称戦を仕掛けられることが、「当たり前」になる事例になってしまうのではないかなぁ、ということ。
 つまり、誰か気に入らない相手の言論があった場合、非論理的でもとにかく訴訟に持ち込んで、指摘した事に対してさらなる言及をすることへの圧力をかける、ということが横行するようになるのではないか、と強く懸念するわけですよ。

 上杉氏の場合、池田先生がご指摘の読売新聞のコピペでないという論拠をご自身のサイトで明らかにすればことが済む問題。実際に100ページに渡る「報告書」を上杉氏自身が出すと言及しているし、それが明確にコピペでないと万人が納得させる論拠があればいいだけの話なのに、「報告書」はまだ公開されずに訴訟で圧力をかけるなんて、端的に言ってむちゃくちゃとしか言いようがない。

 ちなみに。吹けば飛ぶ程度の存在でしかないParsleyでも、過去に数度、書いた記事がポータルサイトに転載された際に「抗議」によって削除される、という事に出くわしている。どれも事実に反していることはまったくなかったのですけれどね。
 紙媒体だと「お詫びと訂正」という形になるので記事そのものが消されることはないのだけれど、ネットメディアやポータルサイトの場合、カジュアルに記事自体を説明もなく消されてしまう場合が多いので、多くの読者にとっては記事が突然消えてしまうことになり、理由も明かされない。
 上杉氏の提訴の場合、池田先生も言論人としては「大物」だし、何よりも「勝てる」からNHN Japanも共同で争う気があるのだろうけれど。これが無名のブロガー・ライターだったなら事を荒立てないでサクッと記事を消すことで「なかったこと」にされる可能性は低くないように思える。
 つまり、書きたいことを「訴訟」もしくは「抗議」という「圧力」をかけることによって封殺するという手法は既に起こっているし、今後それは読者の見えないところでの暗闘が増えるのではないかしら、と強く危惧している。

 少なくとも言論をお仕事にしている方は、批判には言論で対するのが筋だと思うし、メディアにおけるヒエラルキーを利用して既成事実化しようとした上で訴訟という手段を取った上杉氏の行動をParsleyとしては到底支持出来ないし、表現の自由に対する挑戦とすら感じる次第です。

 あと、個人的には上杉氏が代表を務める自由報道協会が公益社団法人と認められた件についてに関心を持っている。もっというと、公益認定にあたっては、「社員、評議員、理事、監事、使用人その他の政令で定める当該法人の関係者に対し特別の利益を与えないものであること」という定めがあるのだけど(第五条の3)、ほんとうに利益を享受していないのか、少なくともサイトを見る限りにおいてはどうなんだろうという印象を受ける。
 そもそも、公益社団法人として「国」より認可を受けることにより、メディアとしての独立性という面で危ういようにも感じるし、理事のさじ加減いかんによっては特定の政治家や団体に対して利する動きをするのでは、という疑問も残る。
 この件、元切込隊長氏ではないけれど、微々たる力しかない木っ端ブロガーとして各方面に聞いて回ろうかなぁと思っています。

『コミティア&文学フリマ後夜祭』開催のお知らせ

 11月18日に開催されるコミティア102第15回文学フリマの後夜祭を東京カルチャーカルチャーで開催!!

 サークルの出した本を5分間プレゼンテーションタイムを取ります。
 出演者の目に留れば景品が貰えるかも??
 トークセッションでは、電子書籍や商業コンテンツとして羽ばたく秘訣を出演者に教えてもらいます。
 コミティア&文学フリマ参加者はみ~んな集まれ~!!

 ☆プレゼンタイム希望者大募集!!
 対象:コミティア・文学フリマ出展者
 概要:サークルもしくは本・コミックのプレゼンを5分間してもらいます。
 各ゲストの講評を得て、一番目にとまったサークルを選んで貰います。
 応募:コチラからお願いいたします。

 トークセッション『電子書籍時代のセルフパブリッシング』
 『マガジン航』などでご活躍のフリー編集者・仲俣暁生氏、ミニコミ誌など数々の仕掛けを行っているKAI-YOUの武田俊氏、クリエイターSNS『TINAMI』を運営している篠田匡弘氏、数々のケータイ小説や電子書籍を出版している内藤みか氏を迎えて、電子書籍などセルフパブリッシングと、作品を「世に問う」ということについて考える機会となるお話をうかがいます。

 また、今が旬のAmazon kindle ストアでランキング1位にもなったSF小説『Gene Mapper』著者の藤井太洋氏もゲストとして緊急出演!!
 Kindleをはじめとする電子書籍に興味のある方々は必見のトークになると思います!

 イベント終了後は、懇親会も予定しております。
 文学フリマ大交流会のような、楽しい会に出来ればと考えておりますので、ふるってご参加下さいませ!

 【イベント詳細】
 PPP Presents インディペンデントナイト
 コミティア&文学フリマ後夜祭~自分のサークルをプレゼンしちゃう?~
 2012年11月23日(金・祝)
 Open 17:30 Start 18:30 End 21:00 (予定)
 前売券/¥2000 (その他飲食代は別途) 当日券/¥2500
 場所:東京カルチャーカルチャー

 【出演者】
 仲俣暁生(フリー編集者)
 篠田匡弘(TINAMI代表)
 武田 俊(KAI-YOU代表)
 内藤みか(作家)
 藤井太洋(『Gene Mapper』著者)
 【司会・企画】
 ふじいりょう(Parsley)

 企画協力:東京ミートアップ委員会

 チケットなど詳細はこちらを参照くださいませ!

 ※本イベントは、コミティア実行委員会ならびに文学フリマ事務局とは関係ありません。
 

キンドルが売れるこれだけの理由

Kindle Paperwhite
Kindle Paperwhite

posted with amazlet at 12.11.22
Amazon.co.jp (2012-11-19)
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 AmazonのKindle Paperwhite、既に出荷がはじまっているご様子。ParsleyはCloud Playerを楽しみたいのでKindle Fire HD待ちだけど久しぶりにワクワクするガジェットになっている。ネットに上がっている評判はおおむね好評みたいだし。

 とはいえ、2010年に言われた「電子書籍元年」に期待よりも広がらずに、シャープのGALAPAGOSや楽天のkoboが残念なハード・サービスだったことも加えて、懐疑的な声も主に出版業界の中から聞こえてくる。
 その急先鋒が、東洋経済オンラインでの山田順氏の連載「紙メディア VS ネット 最終決戦」だろう。連載第一回目のタイトルが「キンドルが売れないこれだけの理由」。見事な逆張りですね。
 ここで山田氏は、以下のような理由を挙げて「日本は電子書籍専用端末の墓場」という説を唱えている。
 
 ・売れた端末がない
 ・品揃えが少ない
 ・価格が高い
 ・コミックが弱い

 しかし、Amazonは2007年に登場以降5年間米国などで展開しているサービスと最新の端末を日本市場に投入してきた。Parsleyは山田氏の仮説は当たらないと考えているので、その理由をつらつらと記していきたい。

 ★圧倒的に便利なkindleのサービス

 GALAPAGOSやkobo、それにソニーのReaderなどとkindleが違うのは、既にiOSとAndroid無料アプリが用意されており、スマートフォンやタブレットでも読むことが出来る点。しかもしおりやハイライト、ノートが同期されるので、端末を選ばない読書ができる。しかもkindleの場合は各端末一台ずつにメールアドレスが割り当てられていて、簡単にファイルを送ることが出来るのが自炊ユーザーにとってみれば嬉しいところ。
 また、サードパーティからさまざまなアプリが開発されているため、ネット上の文書を転送して保存し読むことなど、使い方は単なる「読書」に留まらない。ある程度リテラシーのあるユーザーなら、魅力に感じるスペックのあるモデルとサービスと言えるだろう。

 ★「kindleでしか読めない」コンテンツが増える

 kindleが優れているもう一つの点として挙げられるのが、ダイレクト・パブリッシング。html、ePab、XMDFだけでなく、Wordのdoc形式にも対応しているので、難しいプログラミングの知識がなくても比較的簡単にkindleで出版・販売することが出来る。これは、コミケやコミティア・文学フリマなど同人誌即売会に出店しているサークルや個人にとっては有力な選択肢になるはずだ。
 そして、早くもロールモデルも誕生している。藤井太洋氏のSF小説『Gene Mapper』は、kindleストアで発売して以来ランキング上位の常連になっている。
 今後は、無料のフリーペーパーといったコンテンツも出せるだろうし、より安価な価格で勝負するダイレクト・パブリッシング本が増えていくのではないか。そうなると、「kindleでしか読めない」ものが増え、結果として端末やアプリの利用する人が多くなるだろう。特にコミックの無料本はまだ競争が起きていないブルー・オーシャンなので、急に注目される作者が現れる可能性が高い。無名の新人が話題をさらう日は近いかもしれない。

 ★値段が高い本も案外売れる

 クリス・アンダーソンの『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』は 1714円という価格にも関わらず、ランキングでトップ10入りを果たしている(ちなみに通常版は1995円)。ほかにも、500円前後の書籍やコミックも著者やタイトルによっては、かなりの数が売れている。本好きなアーリーアダプターが多いことを差し引いても、ちょっと驚きの傾向だ。
 しかし、数百円とはいっても通常の書籍よりも安いことを考えば、より多く読むひと程、kindleなど電子書籍を選んで節約する選択をするのかもしれない。
 また、コミックや作者単位での「まとめ買い」といったパッケージでディスカウントをする販売なども考えられるし、書籍・雑誌の再販制度にとらわれない、弾力的な価格設定をしてくる可能性は充分にあるように思われる。そうなると、購買層の「おとな買い」が自然と増えるのではないだろうか。

 ★コミック誌というパッケージをkindleが破壊するかも?

 出版社におけるコミック誌の売上げの比率が高いことはいうまでもないことだが、1990年代から比べて部数が大幅に減っていることも周知の通り。しかし、コミック本単体の冊数は増えており、雑誌ではなく単行本で読むニーズが増えていっている。
 日本においては、2006年頃から携帯での月額課金制コミック読み放題サービスが電子書籍市場を牽引してきた。特に伸びたのがBLやレディスコミックといった、一般書店ではレジに持っていくのに躊躇する作品だ。kindleがアダルト作品を扱うようになるのかは未知数ではあるが、もしそういったコンテンツも販売されるようになればかなり浸透するのではないだろうか。
 いずれにしても、若年層を中心にコミック誌ではなく作品単体で読むというスタイルに移行しつつあるのは間違いないところだろう。となると、出版社としても一話ずつをバラ売りした方が、コストパフォーマンス自体はコミック誌を上回る可能性がある。そうなると、パッケージとしての雑誌というプレゼンスは徐々に減じていくように思える。 

 ★とはいっても、kindleは「紙」を殺さない

 村上福之氏によると、ご著書の『ソーシャルもうえねん』はリアル書店がAmazonの約7倍の売上げだったという(参照)。ということは、15%はAmazonで販売したということになり、ちょっと出版業界にいた身としては驚異的だなと思うのだけれど。未だに取次流通の全国展開が機能しているということは間違いないところだろう。
 また、山田氏も連載の二回目で「電子書籍はデジタル時代に登場した新しい表現形態で、これまでの紙の本とは別のモノ」と述べている(参照)。Parsleyも2011年に「電子書籍は紙の本に勝つ必要はない」と題したエントリーを記しているが、ネットや各種SNSと連携したソーシャルリーディングの可能性など、ただ「読む」だけに留まらない読書体験をディレクションされたコンテンツはまだ現れていない。
 藤井氏は、BLOGOSのインタビューで「執筆や編集という役割を1つ1つ違う人がやっていると、甘えが許されないところはあるのですが、やはり1人でやっているとそういう部分は甘えてしまう」と述べており、出版社・編集者がエージェント的な役割を果たすことを期待する発言をしている。
 そうなると、電子書籍の普及には、出版業界のシステムの変化やコンテンツのあり方など価値観の転回が不可欠だろう。また、電子書籍ならではの編集やディレクション、プロモーションといった専門家が必要とされるようになっていくのではないだろうか。

 ★ここでkindle大好きな方にお知らせです。

 2012年11月23日に、『コミティア・文学フリマ後夜祭』と称して、kindleをはじめとする電子書籍とセルフパブリッシング、そして出版のあり方についてをテーマとしたトークを行います。
 出演者は、藤井氏のほか、作家の内藤みか女史、編集者の仲俣暁生氏、KAI-YOU代表の武田俊氏、TINAMI代表の篠田匡弘氏といった幅広い顔ぶれで、kindle上陸した後の「出版」や「同人」の境界があいまいになった中の「表現」についてお話をうかがいます。

 当日でも大丈夫ですので、ご興味のある方は是非お越し下さい。

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『アゴラ』がマズい3つの理由

 先日、音楽ビジネス界隈では、言論プラットフォーム『アゴラ』編集部の石田雅彦氏の『音楽自体がもうオワコン』という記事について相当な反発があった。
 メディアウォッチャーとしてのParsleyからしてみれば、『アゴラ』って今は亡き『オーマイニュース』の「言論人」版という評価なので、特に編集部発の記事は実際の現場からはかけ離れた、分析にもならない放言が目立つこともあり、「ああまたか」という感じなのだけれど、今回の記事は『アゴラ』編集部がマズい点が凝縮されているので、せっかくだから3つほど列挙してみようと思う。

 1.文法より「釣り」を優先している

 タイトルの『音楽自体がもうオワコン』というけれど、そもそも「Music」って「表現」であって「Contents」(創作物)じゃないから、終ったコンテンツ=オワコンというのは冷静に考えれば日本語としておかしい。あと個人的な感覚だけど石田氏の文章は「している」を「してる」といった話し言葉書きをしてあって読みにくい。Google音声変換を使っているんじゃないか、と疑うほどだ。
 結局のところ、日本語の文法を無視して、その時にキャッチーなフレーズを用いた方がアクセスが稼げる、という判断が働いているのだろう。音楽業界の方々の目に留まったということで、炎上マーケティングに成功したともとれるけれど、仮にも「言論」という名を冠しているにも関わらず、日本語下手ですというのは、いかがなものかと思うなぁ。

 2.稚拙すぎる分析

 「芸能音楽ビジネスは、基本的にレコードやCDの売上げで成り立ってます」と断言しちゃっているこの記事だけど、ライブでの収入へと移行しつつあるというのがここ数年のショービスのトレンド。チケット収入やグッズ収入など、CDなどのコンテンツ自体もライブやイベントへの導線として機能させるような方向になっている。また、音楽配信に関してもレコチョクや着うたなどからカラオケ・有線放送というように多角的に行われているのは、業界関係者ならずとも周知のこと。それをCDと原盤権ビジネスのみで全てを語ろうとするのは無理がある。

 3.センスのないピックアップ

 同記事の他のピックアップでも、『DV妻に苦しむ男が急増中!?』という記事に「急増してるのかどうかちょっとわからないんだが、人間関係がうまく構築できない人は男女問わずいつの時代にも一定数います」とコメントしていたり、『原因不明の「突発性難聴」が引き起こす超危険な症状5つ』という記事の紹介の結びが「とにかく睡眠不足は大敵のようです」とあったり、毒にも薬にもならない内容。というか、そもそも『美レンジャー』とか『痛いニュース(ノ∀`)』がソースって…。

 端的な印象を述べると、『アゴラ』編集部は「編集」の機能をなしていないように感じる。各ブロガーからの寄稿に手を入れている様子はないし(もしくは改悪されているのかも)。編集なら、エビデンスに基づいた情報を付加したり、関連文献へのリンクなどの情報を加えてはじめてコンテンツとして読むに値する内容を読者に提供できているといえるのだけど、そういったところも著者まかせ。だから、週刊誌以下で『オーマイニュース』など市民メディアに毛がはえた程度の記事しか配信できていないのだろう。

 とはいっても『アゴラ』というメディア自体はYahooニュースに雑誌として配信しているし(参照)、BLOGOSでもアクセスを稼ぐ記事を配信していたりするんだよねぇ…。
 しかし、肝心の内容が読み飛ばし程度のものしか出せないのであれば、市民メディア以上週刊誌以下といった程度なので、もうちょっと読めるコンテンツにして欲しいなぁ、と一読者として願う次第です。

 それにしても。どこかのタイミングでブログ黎明期からのネットメディアの変遷はまとめる必要があるかもしれないなー。

 

 

『ソーシャルもうええねん』を読んだ

ソーシャルもうええねん (Nanaブックス)
村上福之
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 村上福之氏は、android電子書籍作成ツール「androbook」を公開されたこと(参照)をきっかけに「面白いひとだなぁ」とご活躍を注目していたので、ご著書が出版されることを知って速攻でAmazonでポチりました。

 内容は、村上氏がさまざまなブログなどでお書きになられたものを加筆したものなので、既読のものも多いのだけど、改めて「面白いひとだなぁ」と感じた。IT業界に身を置くひとだけでなく、多くのビジネスのエッセンスが詰まっているので、文句なしにおススメ本です。

 何よりも「身の蓋もない」感じがステキ。twitterのフォロワーやFacebookの「いいね!」が販売されていて、ソーシャルメディア自体や「コンサルタント」の方々が数字を水増しするテクを暴露していたりするのは、最近のSNSビジネスに冷や水をかける内容だし、ソーシャルゲームの利用者で、お金を落とすのは時間のない30代以上の「オッサン」で、若い学生はヒマなので無料で長時間遊んでいる、といったことは、知らない方にとっては目から鱗なのかもしれない。楽天やAmazonの「1位」が量産されている構造なども、割と知っているひとは少ないのかも。そういったネットにおける真実が、ぜんぶあけすけに語られているのだ。

 だが、本書を読むにあたって、ビジネスにおける格言がたくさん含まれているのにすぐ気づくはず。

 例えば、2012年初頭にネット業界を席巻したGumroadをネタに作ったAmeroadをヤフオクで売ることで話題になった際、「いろいろ考えるより、海外で話題のサービスをパクれ!」という衛藤バタラ氏の言葉が出てきたりする。
 また、災害時のITの脆弱性を東日本大震災を例に出して、「災害に備えて、ワンセグ機器と、スマホと、ラジオを持っているのが、正しい」というのもマーカーを引いておきたいところ。
 ほかにも、「世界は先進国ばかりでない」というグローバリゼーションの実態や、ご自身のプリンタドライバーを会社で勝手に作った時の経験に基づいた「動いているものを見せれば、大人は納得する」、「パワーポイントを使っても人を説得できない」というのも説得力がスゴい。
 「Webプログラミングは写経」というのや、「お金をもらうとスキルは高速でつく」といったスキル系から、「プライドを捨てて、人に聞いたり、頼ったりする勇気」の大切さ、「競争は最大のコスト」「週に一度顔を合わせないプロジェクトは破綻する」「好きなことしかしないと、どんどん将来の選択肢は減っていく」…などなど、明言・格言がボロボロと出てくる。いや、すごいなぁ。

 そんなこんなで。本書を読む際、ソーシャルメディアの実態を知るというのはもちろんだけど、村上氏の「明言力」にも注目して頂きたいな、と思う。ITやプログラムに従事しているひとだけでなく、お仕事をするにあたって、会社員・ノマドと呼ばれているフリーどちらにも有用な言葉が、必ず見つかるはずだ。

ライブ×ネットの「共鳴」×「共有」を分析してみる

ソーシャル時代に音楽を“売る
山口 哲一 松本 拓也 殿木 達郎 高野 修平
リットーミュージック
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 音楽業界の中でも、先進的な取り組みをなさってきた4名の著者による『ソーシャル時代に音楽を”売る”7つの戦略』。音楽に限らず、ネットでコンテンツを扱うことに対するヒントが散りばめられているのでとても参考になった。
 例えば、殿木達郎氏が担当した第二章では、ネットを含めた「ニュース」がユーザーに届けるにあたって、どのようなリリースが効果的なのか論じられていて、PR・マーケティングの関係者ならば必読の内容だろうし、山口哲一氏が音楽におけるパッケージビジネスが瓦解するのではなく、CD・配信・ストリーミングが共存していくという展望をしているのは、電子書籍をめぐる出版界の状況にも通じる部分がありそう。単純に音楽ビジネスの「これから」を考えるだけでなく、コンテンツビジネスを手がける上でのエッセンスがつまった一冊といえるだろう。

 ただ、一点。音楽ビジネスにおいて重要性が増すと言われているライブに関して、第六章で、【共有】・【共感】・【共鳴】のサイクルの説明がフジロックにおけるツイート数を例になされているのだけど、それがいかに多くのユーザーに拡散して、なおかつ「お金を払ってもらえるコンテンツにするのか」というところまでは踏み込まれていなかったのは、やや残念だった。
 なので、同書で提示されたサイクルが見事に回っている例として、ニコニコ動画における『THE IDOLM@STER』(以下『アイマス』)を中心に考えてみたい。

 『アイマス』は2005年にアーケードゲームとして登場したアイドル養成シミュレーションゲーム。2011年にはアニメ化もされ、出演声優が一堂に会するライブの開催も7回を数えている。
 このゲームが、爆発的な人気を集めたのは、Xbox360版が発売された2007年。ここで、自分がP(プロデューサー)として育てたアイドルをニコニコ動画に投稿する文化が生まれ、ゲーム内の楽曲だけでなく、様々なジャンル~J-POPから演歌・ジャズ・オペラに至るまで~と合わせるMADムービーが毎日量産され一大コンテンツとなった。
 ここで特筆すべきなのは、キャラクター人気を支える声優が、歌に対して本格的に取り組み、ファンが集まるライブの場でも本職のアーティストとも遜色ないか、それ以上のパフォーマンスを発揮している、ということだ。ゲームのキャラクターの性格に加えて、担当声優にもそれぞれのファンがつくという好循環が生まれている。
 
 さて。2012年6月に横浜アリーナで2日間に渡って開催された「THE IDOLM@STER 7th ANNIVERSARY 765PRO ALLSTARS みんなといっしょに!」では会場のみならず全国の映画館でライブビューイングを敢行。アニメが大成功したことも合わせて、Pのほとんどが「過去最高」という高評価を得たイベントになった。
 それで、ファンの動きとして重要なのは、イベント前後でニコニコ動画において、楽曲のメドレーなどをユーザー同士で「予習」「復習」する動画が投稿され、再生回数・コメント数・リスト登録数とも多いコンテンツとなっていることだ。
 まず、事前にイベントで流される楽曲を「共有」してイベントへの熱を高める。そして、イベント後には「二次会」と称して、セットリスト通りの順番になった動画が投稿され、ライブでの感動の場面が反芻され、ライブ組・ライブビューイング組・未見のファンをいっぺんに集めた「共鳴」の場として機能しているのだ。

 このファンの動きは、さまざまな示唆に満ちているように思われる。
 ライブの前後に、ファンの心理をくすぐるコンテンツを投下することを、「公式」にするというのは一つのアイディアとして検討すべきだろう。特に、ライブイベント終了後にセットリストの公開することは、ファンの「共鳴」を促す上で、非常に重要な情報になる。コンテンツの内容次第では、動画サイトにおいて有料課金生放送で「視聴会」を販売するということも可能だろう。動画サイトの中でも、ユーザーの反応や一体感を共有する場として、ニコニコ動画は他のサービスに一歩先んじている。
 また、USTREAMでの視聴もtwitterのハッシュタグを介して、ファン同士の繋がりを促進する場となっている。秋葉原のアニソン・DJバーMOGRAや、東京・新宿で開催されている都市型音楽イベント『Re:animation』などでは、USTとtwitterを上手く利用して「共鳴」を起こした例となるだろう。どちらも、出演者・主催者により積極的に情報発信していることが、ファンとの距離を近くして、場の空気の一体感を形成していることは見逃せない。

 このように、ライブイベントとネットは親和性が非常に高く、パッケージ販売(ライブのBlu-ray Disc・DVD・CDなど)の促進だけでなく、LIVE自体のネットでのビューイングや、事前事後のイベントなど、「体験」を販売するといった可能性を秘めている。
 また、よりファンとの密着度を強める際に、著作権を弾力的に運用することも一つの考え方といえるだろう。ライブの模様を映した動画を削除するよりも、より「共感」「共鳴」を高めるための場となっているメリットの方が高い、ということを考慮する必要があるように思われる。

 いずれにしても、まだまだ音楽ビジネスにはネットにおいて未踏の場が広く残されていると個人的には感じているので、そのあたりを「音楽人」たちがどのように切り開いていくのか、楽しみになる一冊だった。
 さしあたっては、2012年11月8日に著者4名が集まるトークセッション『sensor ~ it&music community』で、このエントリーで記したことに関連した質問をしてみようと考えている。

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