大陸幻想異聞

 今日は田中芳樹『夜行曲~薬師寺涼子の怪奇事件簿』を読み飛ばした。
 私parsleyにのって、彼は「とりあえず出版されたなら読む」最初の作家。かれこれ15年以上の付き合いになる。
 しかし、90年代後半から、現実世界と作品世界との境界線がどんどんあいまいになっていくのに、危うさを感じるのを押さえられない。主な活動拠点だった徳間書店の経営が傾いて、日の目の見ない「中国もの」を次々に紹介・出版していく壮大な試み(シリーズ名を失念した)が頓挫してしまったことが、微妙に影を落としているのではないか、と邪推したくなるほどだ。

 そんなわけで、彼は中国大陸への傾倒あるいは偏愛の気がある作家(初期のペンネームが「李家豊」というところからも瞭然で、ここまでくると微笑を誘われる)。それも、結果として比較対象的に日本を「下げる」という手法を用いて、大陸文化を持ち上げることが多々ある。
 だが、これは何も彼一人の傾向ではなく、ある世代以上の方々に共通するものなのではないかと思う。
 よくよく考えてみると、70~80年代というのは日本列島が大陸に一番接近していた時期だったのだろう。72年の国交回復、78年の平和友好条約という政治の流れを受け、中華風味を、こぞって取り入れようとしたフシがある(もっとも、これは日本に限った空気ではなかったのかもとも思うが)。
 その申し子がNHKの『シルクロード』であり、映画『敦煌』であるのではないか。少年マンガの世界でも『ドラゴンボール』や『らんま1/2』が下敷きにチャイナを置いた。『キン肉マン』の一キャラクターを主人公に据えた『闘将!拉麺男』など、成立していたこと自体が奇跡に感じる。そういえば、鳥山明も高橋留美子も田中芳樹と同世代。ゆでたまごはやや下だが、吸収してきたものに差はないのではないか。 


 多分この頃は、文化ではなく、政治形態としての中華人民共和国を、日本人が分かっていなかったのだと思う。もっと言えば、中国文化=中華人民共和国と誤解していた。
 当時「4000年の歴史」という文句が呪文のように踊っていたが、国としては1948年に成立した若さだったのだ。
 時間軸だけでなく、国土や人口など、ありとあらゆる数字を使いスケールを殊更大きく見せ、相手を怯ませ、もともと島国が持ち続けていた「大陸幻想」を喚起することを、鄧小平は企図し、成功した。
 本来なら、そのような空気の中で育った私など、ほとんど脳内漢民族になってもおかしくはなかった。事実、『三国志演義』では飽き足らず、『正史』に手を染め、そこを突破口として全面展開する遍歴は、ステレオタイプもいいところだと思う。
 でも、そうはならなかったのは、「第二次天安門事件」のおかげということになる。

 90年代。政治経済の分野では相変わらずだったが、文化面は先に、やや熱が醒めた。かの地の物語を消費し吸収してしまった、という方がより正確かもしれない。先の田中芳樹と徳間書店のプロジェクトの蹉跌は、そのあたりにも原因があるのではないか。
 20世紀全体として、日本と中国は近すぎる関係だったと思う。以前のエントリーにも書いたが、中国にとって我々は「小癪で生意気で礼儀知らずな存在」。現在起きている日中間の出来事は、列島と大陸を本来の距離に戻すための痙攣のようなものなのではないだろうか。

 もちろん、ここまで書いてきたことは私の仮説に過ぎない。いや、「説」と呼ぶのはおこがましいな。素人の与太話、というところがせいぜいだろう。
 ただ、今回のデモに関する鑑賞法として、もっと俯瞰的な位置で眺めてみてもいいのでは、と感じているのは間違いない。
 観賞? そう。現地に滞在されている方には申し訳ないが、現在の中国の状況は、黙って見ている以外に方策はないと思う。小癪で生意気で礼儀知らずに、相手をじーっと観察し続ける。
 向こうから絡んで来た時は。
 「中国必死だなブゲラッチョ」と哂って…もとい、「あなた方もなかなか大変ですね」と典雅に微笑してみせる。これが、「らしい」対応なんじゃないかなぁ、と思いはじめている。

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 <おもしろすぎるので紹介を兼ねて追記・4/20記>

 『おいらブログ』様が「中国の反日デモを見た日本人の感想樹形図」を作られている。オチまで完璧。マーベラスすぎる。

4 Replies to “大陸幻想異聞”

  1. 毎日、昭和の学生紛争のような光景を見るにつけ

    中国の若者は、いま日本の1960~1970年代の学生たちのような憤りを抱えているのだなぁと思った。だって、テレビの画面で流れる中国北京のデモ隊の様子って、VTRで見る日本の学生紛争や、10数年前に見た、韓国の学生達のデモの雰囲気にとっても近い温度を感じるからだ(も…

  2. 呂布最強論者の俺様は「三国志Ⅰ」にしか手を出さない。
    だってすぐ裏切るんだもん。

  3.               ,,.-‐―- 、
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     いやぁ、ブラックホールのAA、すげぇ格好いいな。
    「闘将!拉麺男」はググって調べたっぽいが、「筋肉マン」の誤植はあんまりだ。
     中国四千年の歴史、と聞くと、昔あった「中華三昧」というラーメンを思い出すなぁ。結構おいしかったのに、最近見かけない。

  4.  >GREEN-man先生
     『三国志Ⅹ』では、君主でなくて武将も選択できるらしいので、なりきり呂布ですよ。
     まだ中古でも7000円前後するので、ちょっと買うの躊躇してます。
     >シイタケ兄貴
     誤植の指摘ありがとうございます。謹んで訂正させていただきます。謝罪と賠償? シネーヨ!

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